財政金融委員会・第2号 2005-10-20

【質疑事項】
1.量的緩和政策の「解除」について「国民との対話」の視点からの説明如何
2.農林系・中小金融機関の資金需要について
3.ペイオフ解禁後の「金融教育元年」に日銀の取組如何
4.「規律ある組織運営」と「ブラックアウト」についてて

○西田まこと君 公明党の西田実仁でございます。
今日はお忙しいところ、総裁、また副総裁、本当にありがとうございます。
今いろいろと議論ございましたけれども、一応確認でございますけれども、今ちまたではこの量的金融緩和の解除ということが大変に話題になってございまして、先ほど総裁は、ややこれが先走った議論ではないかという御指摘もございましたけれども、間違いなくこの解除ということが話題になっていることもこれは事実だと思っております。
私も総裁には何度か質問をさせていただいておりますが、市場との対話はもちろん大事でございますけれども、これは、国会でございますし、私たち国民の皆様方に選ばれてここに来ているということもございまして、国民との対話ということで是非お答えを分かりやすくしていただければというふうに思います。その意味で、このいわゆる解除、量的金融緩和の枠組みの解除ということがどういう意味を持つのかということについて総裁にお聞きしたいと思います。
実際に、地元に戻りますと、例えば変動金利でローンを、住宅ローンを組まれている方とか、あるいは中小企業の方で長期のローンを組まれている方とか、そういう方々から、新聞等で総裁のいろんなインタビュー等が載りますと、これから金利がどんどん上がっていくんじゃないかと、こういうようなことをよく聞かれるわけでございまして、いわゆるこの解除というものがすなわち金利の上昇というものを意味するものなのかどうかということにつきまして、まず総裁から、再度確認でございますけれども、お聞きしたいと思います。

○参考人(福井俊彦君) 先ほども少しお答えいたしましたけれども、現在の量的緩和の枠組みというのは、あくまで日本経済の非常事態に適応した異常な金融政策の枠組みだということでございます。経済、物価の情勢が正常化すればするほど、これは実態にそぐわない政策だというふうに逆になってまいります。
金融政策で一番いけませんことは、実態から離れた政策をいつまでもやると、それは後からツケが非常に大きくなるということでございます。やっぱり経済・物価情勢の変化に最もマッチした形で自然に金融政策の姿、運営の姿を変えていくということが、今御懸念をお持ちになられましたように、急に金利が上がったり、取引に不円滑するような事態が急に起こると、つまり予測が不可能な状況でいろんな変化が企業とか家計の前に出てくるということを防いでいく最も正道なやり方でございます。
日本経済、派手ではございませんが、次第に着実に持続性のある景気回復の軌道に今戻りつつありますし、消費者物価指数で見たインフレ率というのも間もなくプラスの世界に入っていくということが視野に入ってきておりますので、これをもって私どもは、経済は、十分満足いけるかどうかは別にして、かつてに比べればもうかなり大幅に正常な姿に戻りつつあるというふうに思っています。金融政策の姿だけ過去の最も日本経済が最悪であった時期の姿のまま運営していくということは将来に責任ある政策を取るということにならないと、むしろ実態に合わせて緩やかに金融政策の運営の姿を変えていった方が今後の経済・物価情勢にぴたっと見合った金利形成を促していく条件を整えていくことになるんではないかと、こういうふうに思っている次第でございます。

○西田まこと君 先ほどもお話ございました、またこれまでも総裁が言っておられますのは、金融緩和ががたんと階段を付けるようにして不連続で変わるわけではないというお話をされているわけですけれども、これも確認ですが、不連続に変化するわけではないと、すなわち連続的に変化していくんだということですが、それは当然このゼロ金利というものを経由して連続的に変化するというふうに理解をすればよろしいんでしょうか。

○参考人(福井俊彦君) 金利に目を注ぎますと、現在でも、短期金利といいますか、イールドカーブが一番短いところはほぼゼロ金利でございます。量という大きな衣をかぶっているわけでありますけれども、この持つ意味が時の経過とともに薄れてきて、実態はゼロ金利政策そのものに次第に近づいてきていると。したがって、量的緩和の枠組みの修正は、実態も名目もまずゼロ金利というところから再スタートすると、こういう御理解で持っていただければ、私どもの認識と一致いたします。
そのゼロ金利からスタートして将来どういう金利展開をするかということは今後の経済・物価情勢次第ということでありますけれども、今まで量的緩和政策枠組みの下で、人々が金融政策を見る目というのはかなり固定的にごらんになってきたと思います。CPIというものに一点に目を据えていれば、日本銀行がどういうふうに動くかということはかなり透けて見えるようになっておりましたけれども、通常の金利の世界に戻りますと、やっぱり一般の方々も、経済・物価情勢その他世界経済の動きについて幅広く目を注いでいただいて、大きな認識が日本銀行の認識と合っているかどうかを民間の方からもチェックしていただかなきゃいけないわけですが、そのために我々は、従来以上に情報発信を密にして、そういう人々の期待と我々の政策、意思というものに余り大きなそごが生じないようにしっかり運営していきたいというふうに思っています。

○西田まこと君 いわゆる枠組みの解除がその後の長期金利の上昇を招くわけではないと、急激な変化がないんだというお話でございますけれども、それが、解除そのものがその後の長期金利の上昇を促すことはないということを、ある意味でそういう材料にならないんだということを客観的な一つの指標として示す必要があるんではないかという議論は昔からあるわけでございまして、これにつきましては総裁は、例えばインフレターゲティングにつきましてはまだそういう条件が整ってないという言い方をよくされるわけでございますけれども、こうした物価上昇圧力を示す、またその指標としての客観的な指標というものを持つ必要はあるのかどうかにつきまして総裁の御所見を伺いたいと思います。

○参考人(福井俊彦君) 金融政策と人々の期待の安定化ということをにらみ合わせて考えました場合に一番大事なことは、やっぱり金融政策についてはその発動のタイミングが早過ぎもしなければ遅過ぎもしないと、最も適切なタイミングで政策変更が行われ続けていくということがやっぱり人々の経済を見る目とこれが常に一致するということにもなります。
長期金利にいたしましても、その他様々な市場の中の指標というのは、やっぱりそういう多くの人が将来の経済、物価をどう見るか、日本銀行がどういうふうに見ているかと、それが一致する時点でその金利形成等が行われていくわけでございます。したがいまして、日本銀行にとって非常に大事なことは情勢判断を誤らないということでありますし、同時に、情勢判断が変わったときは、我々は機動的に動けるということでなければいけないと思います。
コミュニケーションの道具としてインフレーションターゲッティングその他様々な工夫は項目としていろいろ御示唆いただいているわけでありますけれども、コミュニケーションを密にして我々の情報発信が十分行き届くということと、逆にそれが縛りになってライトタイミングで我々が政策を行うことができないということであれば、国民経済的にはかえって御迷惑を掛けることになります。
したがいまして、政策運営の機動性確保ということと透明性向上と、全くこの性格の違う二つのターゲットのちょうどいい中間点で我々は金融政策が運営できるように、様々な道具立てをこれから工夫させていただきたいというふうに思っています。

○西田まこと君 この金融政策決定会合のたびに内閣府の方からは、デフレ克服のためにもっとマネーサプライ増やしてもらいたいと、こういう趣旨の御発言がございます。名目成長率を高めるためにマネーサプライを増やす必要があるのかどうか。一方で、この日本にはお金がもう、先ほど不動産の話もございましたけれども、じゃぶじゃぶとお金が余っているんだというような御指摘もあるわけでございまして、これは一体どちらが本当なのかどうかにつきまして、もし御意見がございましたらお伺いします。

○参考人(福井俊彦君) 先ほどまでここで議論をさせていただいておりましたのは、狭い意味の流動性、金融機関が保有する流動性の議論をさせていただいておりました。マネーサプライの議論になりますと、企業とか家計が持つお金の量でございます。指標でいえばM2プラスCDといったような代表的な指標で表される指標でございます。
この指標の見方も、その残高が月々どういう上昇率を示しているか、あるいは一年前と比べてどれぐらいの増加率になっているかという見方が一つありますが、同時に、もう既に出回っている今の残高全体の大きさが、人々が日々行っておられる実物取引、金融取引の総量を賄うのに十分であるか不十分であるか、あるいは十分の度合いを超えてもうこれまたあり余るぐらい供給されているか、この二つの見方があると思います。
その後者の見方、既に出回っているM2プラスCDが現在のGDPの大きさあるいは金銭取引も含めた総取引量の大きさから見ますと、これは非常に従来に例もないぐらいマネーの方が大きくなっているわけです。つまり、マネーの残高を取引量で割り算いたしますとこの比率は非常に高くなっておりまして、逆にこの取引量をマネーの大きさで割りますと非常に小さくなっています。通貨回転率が非常に鈍っていると。つまり、お金があり余って、そのお金を全部使い尽くすほどまで人々は取引をしていないということでありますので、我々としてはそういう意味ではマネーは十分供給されていると。余りにも過去たくさんのマネーが供給されているために、最近の月々の伸びあるいはそれを前年対比で見た伸び率そのものは比較的鈍くなっていると。そこの点だけとらえてお金の出方が不十分かどうかというのは、なかなか難しい判断だと思います。
最近、日本だけではありませんで、主要先進国それぞれについて点検してみますと、お金の伸び率、マネーサプライの伸び率と景気の良しあしとのこの相関関係は従来に比べまして非常に不安定になっております。そういう点から見ましても、日本の場合、既に多額のマネーサプライが供給され、人々は使っても使い切れないぐらい今お金がある状況だというふうに極めて常識的に判断する方がむしろ今は妥当じゃないかなというふうに我々は思っております。

○西田まこと君 この金融システム全体につきましては、いわゆる一時期の大変な不安定な状況からは安定化してきているわけでありますけれども、資金需要ということで見ますと、例えば農林系とかあるいは中小企業系の金融機関、小規模な金融機関につきましてはいまだに期末時にかなり強い資金需要というのが発生していることがグラフ等で見られるわけでございますが、こうしたこの小規模の金融機関に関する資金需要につきまして現状どのような御認識を日銀としてはお持ちなのか、お聞かせ願いたいと思います。

○参考人(白川方明君) お答えいたします。
資金需要でございますけれども、企業の方は全体として今借金の返済を進めておるということでございますから、資金需要が大きく盛り上がるということはございませんけれども、しかし全体として景気が良くなってきますと、中小企業につきましても資金需要が少しずつ伸びてくるという感じでございます。
私どもが発表しています銀行貸出しの数字を、これをメガバンクとそれから地域の金融機関に分けまして、地域の金融機関の貸出しを見てみましても、やっぱり少しずつそれが増えてきているという感じが出ております。

○西田まこと君 一昨日の報告にもございましたけれども、規律ある組織運営ということにつきまして、いわゆるブラックアウトのことにつきましてお聞かせいただきたいと思います。
このブラックアウトと言われるものにつきましては、紳士協定と申しますか、金融政策委員の間での申合せといたしまして、決定会合の2営業日前から総裁の会見の終了時刻までの間は原則として金融政策及び金融経済情勢に関して外部に対して発言をしない、こういうふうな申合せが、2年前だったかと思いますけれども、なされているわけでございます。修正されているわけでございます。
しかしながら、最近、まあこれはうわさにすぎませんから多分事実じゃないと思いますけれども、一部の政策委員の方が大変に、いわゆるブラックアウトの期間に外部に対して発言をしているかのようなことを私の耳にも何度か入ってきておりまして、事実とは思っておりませんけれども、念のためにお聞きしたいと思います。
この申合せは各委員にどのように徹底をされておられるのか、そして、万が一この申合せに反する行為があった場合にどのような対応をされる準備をされているのか、予定しているのか。またさらに、いわゆる外部に対して発言をしないということですけれども、この外部というのには、例えば財務省は入っているのかどうか、これにつきまして確認をさせていただきたいと思います。

○参考人(白川方明君) お答えいたします。
金融政策決定会合の直前に同会合の関係者が外部に対しまして自分の考え方を述べますと、決定会合における審議の内容や政策決定の方向性に予断を与えまして、市場に無用の思惑や混乱を招くおそれがございます。こうしたことを勘案しまして、政策委員会で申合せを行いまして、同会合関係者が決定会合の2営業日前から会合終了日当日の総裁記者会見終了時刻までの間は、これは金融政策及び金融経済情勢に関し外部に対し発言しないということにしておりまして、これが今御指摘のブラックアウトルールでございます。
言うまでもなく、この決定会合の関係者は、この政策委員会が申し合わせましたブラックアウトルールを、これを厳格に厳守しているというふうに考えております。
それから、今御質問の外部でございますけれども、政府、例えば財務省、これは入っておるかということ、これはこの申合せの中には入っておりません。

○西田まこと君 入っていないというのは、要するに発言してもいいということですか。

○参考人(白川方明君) 政策委員会決定会合に出席される政府の方々も、政府の立場におきましてそれぞれの守秘義務があるということでございます。

○西田まこと君 このブラックアウトの期間でも一般的な意見の交換は許されているというふうに解釈されていると理解しておりますけれども、一般的な意見交換というのは、具体的にはどういう範囲を示しているのでしょうか。

○参考人(白川方明君) 日本銀行の政策委員会決定会合におきます議論は、これは議事要旨を通じて世の中に公表しております。それから、会見直後の総裁の記者会見でもまたこれ説明しております。
そうした日本銀行、既に世の中に説明している事柄につきましても、これは十分、その議事要旨だけで十分にその意が通じないこともございますし、これは日銀法の規定に沿いまして、政府との間で意思疎通を密接に行うという観点からそういうふうな説明を行っておると、意見交換を行っているということでございます。

○西田まこと君 最後に、今年はペイオフが解禁をいたしまして、これ総裁に是非お聞かせ願いたいんですが、いわゆる金融教育元年というふうに位置付けて、日銀といたしましても大変に熱心な取組をされていると承知しております。大学においていろんな教育を施していくということも大事でございますけれども、小中あるいは高校に至るまでこの金融教育というものを十分に普及させていくということも大変大事であるというふうに思っております。
アメリカでは、いわゆるFEDチャレンジというふうに称して、いろんな金融政策について競い合って、そこに審査員として例えばグリーンスパンさんがそこにいるというような、議長が自ら出ていって、そういった金融教育の普及に努めておられるという姿も聞き及んでおります。
こうした、まあ福井総裁もいろんな講演等を通じながら、また大学等でも御講演されながら、こうした金融教育の普及にお努めになっていることは承知しておりますが、例えばアメリカのこのFEDチャレンジのような、具体的にこの現場というか、小中高の皆さんのいるようなところでの現場におけるそうした金融教育を普及していく活動なりが、これからなさってはいかがかというふうに思いますが、もし御感想があればお聞かせ願います。

○参考人(福井俊彦君) ありがとうございます。
金融教育というのもちょっとおこがましい言葉なんですけれども、国民の皆様1人1人にお金を生き生きと使ってもらいたいと。本当に若いときから、学生のころから、あるいは強いて言えば小学生のころから、お金というのは何か忌み嫌うような不浄なものだというふうな感じでなくて、やっぱりお金を上手に使うことが、世の中非常にダイナミックなすばらしい世の中になるんだということを実感を持って分かりながら育ってほしいし、大人になりますと、もっと本当に、お金をどこかに預けておけば自然にいい動きをするんだというんではなくて、自分のお金は自分で大切に使うと。預けたお金は人が本当に生き生きと使っているかをよく見ると。納めた税金もちゃんと政府が正しく使ってくださっているかをよく見るというふうに、お金がいかにこの世の中に前向きに役に立っているかということをしつこく追っ掛けるぐらいの気持ちをみんな持っている方がいいというふうに私も思っています。
そういう気持ちから、日本銀行でも今年、金融教育元年というふうに名を付けながらいろんな活動を展開しておりまして、1つは金融教育フェスティバルと。いろんなシンポジウムとか、そのほか、お金について学ぶ子供の広場とか教育セミナーとか、いろんなことを盛り込んでやっておりまして、11月に東京で開催する予定でございます。もう1つは全国リレー公開授業と。これは、児童生徒の保護者などにも参加していただいて、金融教育の分かりやすい授業を実践するものでございます。全国21の学校で順次開催されております。このほか、様々なプログラムもございます。
私自身も、今年3月に大阪で全国キャラバン金融講座の講師を務めさしていただきました。また、来月、東京での金融教育フェスティバルにも私は出さしていただく予定でございます。できる限りスケジュールに余裕をつくりましてこういう活動に積極的に出ていきたいというふうに思っております。

○西田まこと君 終わります。