187-参-財政金融委員会-002号 2014年10月16日

○西田実仁君 公明党の西田実仁でございます。
今日は、まず大臣には、世界経済に対する御認識を承りたいと思っております。
先週、IMFあるいはG20等の国際会議が開催をされました。来週以降も、この秋に向けて様々な国際会議が経済の関連でも開かれるわけでございまして、今日はそういう世界の経済、そして日本の経済に与える影響、こういうことについてお伺いしたいと思います。
IMFあるいはG20、いずれも世界経済の下振れリスクというものに警鐘を鳴らしております。G20中央銀行・財務相会議におきましては、G20のGDPを今後五年間で二%かさ上げをする政策が打ち出されている。結論を急ぎますと、そうした政策を打ち出さざるを得ない昨今の世界経済の低迷ということについて、私自身は、世界経済がさきの国際金融危機から脱出の過程にある中で、早過ぎる財政あるいは金融の出口政策によって世界全体の景気が減速をしているのではないかと心配をしているわけでございます。
先ほどの審議の中でも大臣からも御発言が様々ございましたけれども、今日はお手元に、正念場の世界経済として私の方で作らせていただきました、世界の財政、また金融、そして通貨供給量や実物の生産高等について変化をまとめさせていただきました。
まず、その財政、金融の早過ぎる出口戦略という点であえて作らせていただきました、世界の財政赤字の対GDP比でございますけれども、これは二〇〇九年にマイナス七・三%であったものが、二〇一四年、直近の数値では三・二%というふうに世界の財政赤字は対GDP比で急減をしている、財政再建が進んでいるとも言えると思います。
一方、金融の方でありますけれども、日米欧の中央銀行の資産残高、これを二〇一四年五月と本年九月を比較をさせていただいております。日米欧の中央銀行の資産残高というのは、ECBそのものが大変に一兆ユーロほど資産残高を減らしてきていることに加えまして、FRBも年初来の資産買取り縮減を行っておりますので、既にピークアウトしておるわけでございます。
そうした欧米の中央銀行の資産残高の圧縮ということに日本銀行の資産残高を加えましたものが、この表にございます二〇一四年五月段階で十兆五千百五十一億ドル、対前年同月比で一五・一%であったものが、直近では七・六%ともう半減をしているという、そういう日米欧の中央銀行の資産残高の変化でございまして、財政においては財政赤字が世界で進んできていると。そして、金融においては、日本は別ですけれども、欧米におきまして資産残高は圧縮する中で、全体として金融が引き締まってきているということでございます。
その結果としての主要四十五か国の通貨供給量というのをその後、M2、前年同月比で並べさせていただいておりますけれども、この世界主要四十五か国の数値というのは世界経済全体の約九割を占めるわけでございまして、このM2の前年同月比は、本年六月で一八・八%であったものが、この八月にはもう六・八%まで減ってきているということでございます。
こうしたM2の減速ということが世界のGDPの減速を生み、また国際商品価格が低下をしてきている背景にもあるのではないかと私は思っているわけであります。
そして、それに伴いまして、主要四十五か国の生産高も、ここにございますように、本年一月には前年同月比四・三%だったものが、八月には二・八%というふうに減速をしている、これが世界経済全体の財政、金融、そして、それに伴う実物の生産高の変化であります。
こうした現状を考慮してだろうとは思いますが、今回のG20、中央銀行・財務相会議では、G20の、先ほど申し上げましたGDP全体を今後五年で二%、約一・八兆ドルでありますが、かさ上げをするという政策を打ち出されたわけでありますが、ドイツの抵抗が大変強かったということが報道されているとおりでございます。
そこで、大臣はこの会議に出席をされておられますし、積極的な発言もなさっておられますので、世界経済の現状認識についてどう考えておられるのか、お伺いしたいと思います。
世界経済は、新興国が主導した過去十年の経済から、それを先進国がバトンタッチを受けて世界経済を維持していかなきゃならないんだけれども、それがうまくバトンタッチできないと世界経済全体が長期停滞に陥るリスクがあるんではないかということを懸念をしておりまして、私自身はそう思っているわけですけれども、会議に出席された大臣の御所見を伺いたいと思います。

○国務大臣(麻生太郎君) 世界経済全体としては、これは緩やかではありますけれども確実に景気は回復しつつあるという、まあ国によってばらつきがありますので、今ドイツの例も引かれましたけれども、米国では間違いなく景気は回復しておりますし、ヨーロッパでも景気としては、もうこれはドイツとギリシャとか、ドイツとか、いろいろ比較によって違いますんですが、いずれにしても、全体としては、一時これはEU全体二十何か国全部という感じだったのが少し持ち直してきているというのは確かだと思います。
中国に関しましても、これは景気の拡大テンポは明らかに緩やかになってきておりますけれども、確実に今までのテンポは落ちたけれども回復しているというんで、経済状況とか政策の余力とかいうのを踏まえました上で財政政策とか金融政策とか構造改革を一体的に推進していくということがこれ一層重要なんであって、これはIMFとか世銀の総裁とかいるところで私の方から申し上げた話の内容ですけれども、これは多分今は間違いなく各国共通認識になっていると思っておりますので、去年と今年ではその点は随分大きく変わってきたかなと思っております。

○西田実仁君 そういう意味で、世界経済全体を緩やかに成長させていくためにどうしていくのかということで、私自身は早過ぎる財政、金融の出口戦略ということは取るべきではないというふうに基本的には考えております。
そうした世界経済の認識の上で、それが日本にどう影響を与えていくのかということについて次はお伺いしたいと思いますが、まず、最近は若干円高というか、円安が是正というか、向いておりますけれども、この円安効果についてどう見るかということであります。
よくある批判に、生産拠点はもう既に海外に移転してしまっているので、円安になっても輸出数量が伸びないとか、あるいは企業が利益重視で以前のように輸出価格を引き下げるということがなくなっているために輸出数量が伸びないということで、円安効果は期待外れであるということが指摘されております。
しかし、果たして本当にそうなのかどうか。日銀統計の契約通貨建ての輸出価格を見ますと、確かに機械とかあるいは輸送用機器などは国際競争力が強い産業ということで、一部にそうした傾向があることは事実でありますが、電気・電子機器を始め多くの産業で輸出価格は実際には低下しているわけでありまして、全体で年間六%ほど下落をしております。その結果、輸出の数量も、例えば三か月の移動平均等で見ますと、傾向としては昨年二月を底にして九%ほど増えてきているという意味での円安効果はやはりあるんだろうというふうに私は見ております。
二〇一二年度のGDPベースで見ますと、輸出が七十兆ございましたので、九%ほど増えているということを基に計算しますと、約六兆円の拡大効果ということが円安によってもたらされているというふうに言えると思います。
とはいうものの、確かに従来の為替の変動によって輸出がどれだけ増えるかという率からしますと、大体ざっと言うと六掛けぐらいに収まってしまっているということでございます。これも事実だと思います。それは、先ほどの円安効果が余りないんではないかという指摘とは違いまして、むしろ世界経済の減速によるもの、世界貿易が鈍化している、そのことによって円安が従来のように輸出数量にすぐにつながらなくなってきているという面をやはりしっかりと認識をしなければならないというふうに思います。
ということであれば、本来、円安効果が、先ほど六掛けと申し上げましたが、十兆円あってもおかしくないということからすると、実際には六兆円ほどというふうに試算されれば、四兆円ぐらい少なくなってきているということでございますので、それがその分、景気が予想よりも下振れしているのではないかというふうにも分析がされるわけであります。
その補填策ということを考えるのであれば、円安の損、円安によって損を被る、デメリットの大きい輸入の部門、特に中小企業あるいは非製造業及び所得の少ない家計を中心に集中的な対策を講じていかなければならないというふうに思います。
ところで、来年の十月に消費税一〇%ということが、予定どおり引き上げるために環境整備が必要だという論がございます。しかし、仮に補正予算等を組むということを仮定した場合、来年十月に予定どおり引き上げるのであれば、来年度予算は補正後の歳出以上の歳出が必要になってきてしまいまして、プライマリーバランス自体悪化させることにもつながりかねないと。
世界経済の下振れリスクが拡大している現状を鑑みれば、今年度は円安効果の下振れ分の補填にとどめて、消費税引上げに伴う経済対策というのは来年度予算に組み込んで、来年度の下期に集中的に効果が現れるようにするという基本的な考え方をした方がいいんではないかというふうに私は思っておりますが、予定どおり消費税を引き上げる経済の環境づくりということと、景気の下支え策につきまして、大臣の基本的な考え方をお伺いしたいと思います。

○国務大臣(麻生太郎君) これは、今申し上げましたように、景気は間違いなく緩やかに回復しているとはいえ、一年先の話だとはいえ、いろんな局面を我々は、クリミアがどうなるとかいろんなことを考えておかなきゃならぬと思っております。少なくとも、石油の値段がバレル八十六ドル、ドバイもそれからWTIも同じようなことになりましたので、そんなことを一月前に言っている人はおりませんでしたから、そういった意味では、一挙にこれだけ石油の値段が百ドルからどんと下回って八十五ドル、六ドルというような状況というのはなかなか考えられない状況でもありますので、こういったものを考えますと、ちょっと、簡単にこうなりますからということを言うわけではありませんけれども、少なくとも我々としては、十月に上げたときの反動減やら何やら考えてきちんとした対応を打たねばならぬ。その他、来年の十月は予算の中で。
それから、その前に、私どもとしては十八条の三項というものを考えて、少なくとも今のうちに、特に低所得者層又は中小零細企業等々に対する対策等々というものにつきましては、景気の下支えというものにつきましては、これは七—九の数字をきちっと見た上で決めていかないかぬところだとは思っておりますけれども、いずれにいたしましても、こういったものは法律にきちんと書いてありますので、そういった意味に合わせてそれにちゃんと適切に適応しているような経済情勢、景気状況というのをつくっていくというのが、これから来年度予算編成、この年末にかけて一番大事なところになってくるだろうと、私どももそう思っております。

○西田実仁君 今大臣から、低所得の家計あるいは下請中小企業に対する対策をきちんと景気の下支え策としても取らなきゃならないというお話をいただきました。まさにそのとおりだろうというふうに思います。
この国際会議におきましては、新興国のインフラに対するマネーの供給ということも随分話題になったように聞いております。新興国の成長の鍵を握るインフラ整備に世界のお金をどう振り向けていくのかということが議論の焦点になりました。議長国の豪州では、シドニーに拠点を置いて各国のインフラ事業の情報を集めてマッチングをするという、そうした仕組みをつくることを提案されておられたり、あるいはこうしたことが既存の世界銀行やADBの、アジア開発銀行の側面支援をするという趣旨だろうというふうに思います。
一方、話題に最近なっておりますのは、中国がAIIBということで、それを設立をして、そしてアジア諸国の中にも、私も何人かの方から直接お聞きしましたけれども、こうしたAIIBに出資をするという諸国も出てきているわけでございまして、背景には、今の既存のADBに対する様々な不満というか、もっとこうしてもらえないかという、そういう問題意識もくすぶっているのではないかというふうに思います。
こうしたアジアのインフラ整備について日本が主導してきたADBが今後どのような役割を果たしていくのか。また、AIIBに関心が向くということは、既存のADBに対する様々な改善ということも促しているんだろうというふうにも思われますので、どう改善していくのか。AIIBとADBの関係はどうなっていくのか。そして、日本はAIIBに出資をするようなお考えもお持ちなのか。こうした諸点につきまして、現状でお答えできる範囲でお答えいただきたいと思います。

○国務大臣(麻生太郎君) AIIB、最近、聞かない言葉ですけれども、エイジアン・インフラストラクチャー・インベストメント・バンクというものを新たに中国が主なスポンサーとなって設立をしたいということを打ち上げております。
アジアの新興国にとりましては、今、インフラストラクチャー、電力とか港湾とか水道とか高速とか鉄道とか、そういった基本的なインフラストラクチャーにかなりな遅れが出ているために経済成長にキャッチアップできていない、経済成長を助長できない等々の悩みがありますので、インフラストラクチャーに対しての希望は非常に大きなものがあります。
中でも、例えばいろんなやり方をやっておりまして、例えばインドの場合は、ニューデリーからアンコールワットじゃなかった、マハラジャのお城、何と言ったっけ、お寺……(発言する者あり)タージマハル。サンキュー・ベリー・マッチ、タージマハル。タージマハルに行くのに、昔は飛行機でとにかく乗り継いでえらい騒ぎで行ったんですけれども、今は完全に車でぼんと行けるようになった。それは全部PPPでやっております。プライベート、パブリックというあれで全部やっているんです。PPPだけでこれを造り上げてきておりますので、この話も、現実問題として、その高速道路料金のいわゆる料金代でちゃんとペイするというのを向こうの頭取も言っておりますので多分そうなんだと思いますが、そういうのをいろんなことを考えてやっているんですが、基本的にインフラが足りないことはもうはっきりしております。
したがいまして、そういったものに対して応えるだけの金を誰かが出すということになったときに、それは銀行で、ADBとか世界銀行とかODAとかいろんなことをやっておるんですが、そこになかなか、今各国、そのADBの増資をやるとか、そういったことに関してはなかなか乗りにくい。で、今、別の方法として、そこに増資をするのではなくて金を貸す、増資の金ではなくてADBが貸す金を貸すという融資みたいなものもやるということを認めておりますので、IMFにしてもこれにしても、そういったことをやり始めておりますので、日本としてはそれには応じられますということを私ども言っております。
傍ら、このAIIBの方は、今、主に融資を募っておるんですが、アジアの国でとにかく中国が巨大なシェアを持ちますものですから、占有率を持ちますものですから、よく中身が見えません、正直なところ。したがって、失礼ですけど、おたくら、そんな融資する審査能力がおたくはありますかと。中国さん、おたくはそんな融資の審査能力がありますかと。シャドーバンキングを見ながら、そんな融資を審査する能力なんかなかったじゃないですかと、これは各国が言うわけです。
それで問題は、でき上がった後、その金を貸した、ところが取りっぱぐれた、返ってこない、その国からといったときに、これまで貸しているADBの金、貸している世銀の金、これまで貸しているODA等々いろんなものの融資の金が、その国が財政破綻をしたために、今までだったら順調に返ってきたものが、中国がどんと貸したがために返ってこなくなったときには、おたくは返済順位は一番劣後ですよと、これまでうちが貸している分が最初ですよということは約束してくれるんでしょうねとか、いろいろな今交渉をしている最中でありますので、こういったものがはっきりして、その中のトランスペアレント、中の透明性が確保されない場合に、日本とかアメリカとかそういった国でADBとか世界銀行にシェアを持っております国としてはなかなかそういったもの、自分たちのこれまでやっておるのが傷つく可能性がありますので、そういったものはなかなか乗りにくいというのが我々の今置かれている状況だと理解しております。

○西田実仁君 そういう状況の中で、しかしながらADBの役割も、もっとこういうふうにしてもらいたいというのが多分要望としてインフラ需要のある国々からもあろうと思いますので、それに対する対応、対策も必要であろうというふうに思います。
次に、医療費控除についてお伺いしたいと思います。
今、女性の活躍に中立的な税制として配偶者控除の議論というものが、今に始まったことではありませんけれども、特に活発化を最近になってしております。配偶者控除に対する様々な意見というのがございますが、とりわけ大きいものとして、まず配偶者控除は就労調整の原因となっている、特に女性の社会進出を妨げているという批判がございます。二つ目に、配偶者控除は専業主婦世帯や妻がパート勤務の世帯への優遇であり、フルタイムの共働き世帯に不公平感があるとの指摘もございます。
今日は大変多岐にわたる議論でありますので、最初に申し上げたところは議論せず、二つ目のこと、すなわち専業主婦あるいはパート勤務の方々とフルタイムの方との不均衡、不公平ということについて、介護ということを絡めてお話をしたいと思います。
専業主婦あるいはパート勤務といっても、その実情は様々であろうかと思います。中には、家族の看護あるいは介護によってフルタイムでは働けない、専業主婦として介護や看護に専念しなければならない御家庭が結構あるということは認識しなければならないというふうに思います。
配偶者控除に関する議論は今後更に活発化していくものと思われますけれども、議論の際には、配偶者控除あるいは特別控除のみならず、基礎控除あるいは医療費控除など、所得控除全般にわたって幅広い議論をする必要があるのではないかと私は思ってございます。とりわけ、昨今の在宅介護への政策誘導をしている今の日本においては、介護に関連いたしました税制の在り方について議論をしなければならないというふうに思います。
介護サービスに関する医療費につきましては、一定の要件を満たす場合には医療費控除の対象と現在なってございます。ただ、この一定の要件を満たす場合というのは必ずしも明らかではありませんで、これまで医療費控除の趣旨に合致した運用によって社会的実情に適合するよう取り計らってきたというのが現実であります。しかしながら、本来的にはこの医療費控除は、所得税法七十三条あるいはその施行令である二百七条といった法令を解釈、通達によってではなくて、そうした法令を社会的実情に合わせて改正していくということが必要ではないかという問題意識から質問させていただきたいと思います。
まず、医療費控除の趣旨でありますけれども、この医療費控除はなぜ設けられているのかといえば、一定金額を超える医療費の負担は納税者の担税力を弱めるという考え方に基づいて認められていると理解しております。いわゆる応能負担原則という憲法の要請に応えるための制度であろうというふうに思います。そして、この医療費控除は、申し上げました所得税法七十三条で限定的に定められております。
所得税法七十三条の第二項には医療費控除の対象が定められておりますけれども、その対象は、申し上げたように大変に限定をされております。そして、政令に委任されておりまして、委任されている政令、所得税法施行令二百七条におきましては更に医療費控除の対象について限定列挙をされているわけでございます。この施行令の二百七条五項には、保健師、看護師又は准看護師による療養上の世話が医療費控除の対象として挙げられております。これについては、所得税基本通達七十三の六におきまして、保健師、看護師又は准看護師が業務として行う療養上の世話をいうけれども、これらの者以外でも療養上の世話を受けるために特に依頼したものから受ける療養上の世話もこれに含まれるというふうに基本通達されております。つまり、保健師又は看護師、准看護師以外の者による役務提供であったとしても、療養上の世話を受けるために特に依頼したものから受ける療養上の世話であれば医療費控除の対象として認められているということでございます。実際、指定介護老人福祉施設、特養、あるいは介護老人保健施設などの施設サービスの対価は医療費控除の対象になってございます。
この介護保険制度下での指定介護老人福祉施設の施設サービスの対価に係る医療費控除の取扱いについてという法令解釈通達が平成十二年六月八日に出ておりますけれども、これによりますと、指定介護老人福祉施設では日常生活上の世話と療養上の世話とが行われており、後者、すなわち療養上の世話に係る負担のみが医療費控除の対象になると解されてございます。しかし、実際、介護の現場におきましてはこの両者を区別することは大変困難であるということが指摘されております。実際、介護保険法第二条第二項におきましては、介護保険サービスは医療との連携に十分配慮して行わなければならないとされておりまして、こうした医療サービスと療養上の世話、あるいは日常生活というものを峻別することが大変に難しく、日常生活上の世話に関する介護も療養上の世話に関する介護も密接に結び付いているというのが実態だろうというふうに思います。
医療費控除の趣旨、先ほど申し上げましたけれども、医療費などの異常かつ臨時的な負担による納税者の担税力の減殺への配慮というのがその目的、趣旨でありまして、介護についても、社会的実情を反映すべく、これまでの医療費控除がどこまで介護サービスに適用できるかについては通達により緩和をしてきたというのが歴史だろうと思います。その典型は介護おむつであろうと思います。介護おむつについては、本来、医療行為とは関係ない、あるいは療養上の行為でもない、むしろ日常生活上の世話の範囲内の支出と考えられてきたわけですが、当初、医師の証明があれば医療費控除の対象として取り扱われて、現在では介護サービス費用の中に含まれ、介護保険給付の対象となり、その自己負担額が医療費控除の対象にもなっているということでございます。
そこで、今日は国税庁の次長にお見えいただいておりますが、現在、医療費控除の対象外となっております介護保険の居宅サービス等として、例えば生活援助中心型の訪問介護、あるいは認知症高齢者グループホーム、福祉用具貸与、介護予防福祉用具貸与などがございますけれども、これらについても、仮に医師による療養上の世話との証明がある場合、医療費控除の対象となるんでしょうか。

○政府参考人(佐川宣寿君) お答え申し上げます。
今先生御指摘のとおりでございまして、医療費控除につきましては、所得税法上、医師による診療、それから治療に必要な医薬品の購入、医療等に関連する人的役務の提供の対価と、こういうふうになっております。したがいまして、そういう趣旨からしまして、介護保険の居宅サービスの医療費控除のお話でございますけれども、まさに訪問看護などのいわゆる医療系の居宅サービス、それと、この医療系のサービスの計画と併せましたいわゆる一定の福祉系の居宅サービス、これは共に医療費控除の対象となるわけでございます。
ただ、先生御指摘のとおり、福祉系居宅サービスの中でも洗濯とか調理とか掃除とか、いわゆる生活援助中心型の訪問介護につきましては、これは医療費控除の対象とならないところでございます。
したがいまして、今御質問の、仮に医師による療養上の世話に該当するとの証明があったとしましても、今のような生活援助中心の居宅系サービスにつきましては医療費控除の対象にはならないというところでございます。

○西田実仁君 そうしたことが幾つかこれまでも医療費控除の対象をめぐって議論をされてきて、少しずつ変わってきたというのがあります。
これまで介護に関する費用については、先ほど申し上げましたように、医師の診断書あるいは証明書などから施設と医療機関との一体性が認められれば、それを医療費控除の対象と認めるという対応が法令ではなくていわゆる緩和通達によって取られてきたという経緯がございます。法令に限定列挙をされている医療費控除の対象なんですけれども、通達によって税務執行面では柔軟な対応を取ってきたというのがこれまでの経緯だろうというふうに思います。
医療費控除の趣旨に沿った運用という意味では評価できる面もございますけれども、一方、裁判等も起こされておりまして、通達で拡大解釈を行っても、法令自体が限定的になっているために、最終的に控除の対象になるのかどうかの判断が難しくなってきているというのも実態ではないかというふうに思います。
そこで、医療費控除について、これから議論をいろいろすべきであろうというふうに私は思っておりますけれども、これまでその趣旨に合致をした、社会的実情に適合した運用がなされてきたわけでありますけれども、本来的には、所得税法七十三条あるいはその施行令である二百七条といった法令を社会的実情に適合するように改正すべきではないか。医療費控除は、もうかなり長期にわたって改正もされることなく、本当に時代に合っているのであろうか。その対象となる医療費の範囲あるいは適用条件などの見直しを総合的に行うべきではないか。
その際、医療は医療、介護は介護と、なかなかこの区別も難しくなっておりますし、また、医療と介護の連携ということが今地域包括ケアシステムの中でも議論の中核になっているわけでございまして、医療と介護を合わせた総合的な所得控除の在り方を今後検討していくべきではないかと思いますけれども、大臣の御所見をお聞きしたいと思います。

○国務大臣(麻生太郎君) 今、国税庁の方からも答弁があっておりましたけれども、今御指摘のように、今法令によりまして、医師又は歯科医師の診療、治療の対価とか、治療、診療用の医療品の購入の対価とか、また医療費に関連する人的役務の提供の対価などに定められているのは御存じのとおりであります。ただ、法令に定められた考え方の下で個別事例への当てはめということになるんですが、これは、国税庁において控除の対象となる医療費の範囲に関する通達というものを定めて、取扱いの統一や明確化を図ってきたというのがこれまでなんだと思っております。
ただ、こうした個別事例への当てはめについて、御指摘のように法令とかいうもので具体的にきちっと定めるということになりますと、今、介護サービスとかまた医療行為の対応がいろいろ多様化しているというか様々な形になってきております昨今のことを考えると、これは非常に柔軟性に欠けることになりはせぬかなという面もあるので、難しい面が出てくるのではないかという面もこれは考慮しておかねばならぬところだとは思っておりますので、ちょっとこれは簡単に今これで定めるというようなところにはなかなか行かないかなという感じがいたしております。

○西田実仁君 確かに、その通達によって柔軟な対応ということができているということは評価していくべきだろうと思いますが、今後、様々な所得控除について議論する際に、この介護についての費用をどう見ていくのかということは十分に考えていかなければならないというふうには思っております。
最後に、この介護に関連して、よく相談を受けることというか、御注文いただく、まあ無理だというふうにお答えはしておりますけれども、そういう市民相談から一つお聞きしたいと思います。
この方は、現在、御両親が八十五歳と八十歳で、お二人で生活をされております。お父様が要介護一、お母様が要介護五ということで、このお母様の方が三か月前から入院をしているということです。お子さんが三人いて、三人兄弟なんですが、兄、弟はそれぞれ遠方に住んでいて、長女の女性、御婦人がお近くに住んでいると。しかし、何らかの事情で生計を一にしていないという、そういう御家庭でございます。高齢の御両親の面倒を見るために仕事を辞めて、入院中の母親と父親の生活の面倒を見ているということでございました。今後、母親が退院して介護施設に入居した場合には、その費用は月十七万円ほどは掛かるだろうと。両親の年金合計が二十万円、残り三万円、これでは残された父親の生活は極めて厳しくなるという、そういう実情を訴えておられました。
この長女の御婦人からしますと、本来、生計を一にしていればいろんな介護に関する費用は医療費控除の対象になりますけれども、家庭の事情が様々あって生計を一にできない中で、介護に掛かる費用は医療費控除の対象には全くならないわけでありまして、しかし、親の介護のために出費した様々な費用の一部でも所得控除の対象になれば非常に助かるという、そういう御意見。
しかし、これは法律上、生計を一にしていないということでありますので難しいわけでございますけれども、しかし、こういう、一緒に住めば別に問題ないんですけれども、何らかの事情で住めないけれども、実際にはその介護のために様々な費用を捻出をして充てているというケースも今後増えていくんではないかというふうに思っておりまして、今すぐここで何か答えが出るわけじゃもちろんありませんけれども、こういうケースも含めて、介護に関する費用負担というものを医療費控除の本来の趣旨、目的ということからして様々見ていかなければならぬではないかという問題意識を持っておりますけれども、最後、感想なりお聞きできればと思います。

○国務大臣(麻生太郎君) これは、西田先生御指摘のように、これは物すごくいろいろなケースが考えられるんだと思っております。
仮に家計が別であるとしても、親族の医療費の話ですから控除の対象とするという仮に前提に今立てば、今度はどういった支出まで認めるのかというこの線引きが物すごいこれは難しいことになるなと、今伺ってそう思ったんですけれども。
通常の生活の中で家計として一体と扱われているという点で線を引いているのが今なんですけれども、これは一つの線引きの方法としては分かりやすい形になっているんだと思っておりますので、別のところまでというと、どういった形で線引きするかというところが今後、公平だ不公平だ、あれがよくてこれが駄目だとかいうことの一番難しいところになるんじゃないかなという感じが率直な実感です。

○西田実仁君 終わります。