189-参-財政金融委員会-002号 2015年02月26日

○西田実仁君 公明党の西田実仁でございます。
私の方からは、問題意識として最初に申し上げたいと思いますが、原油価格について今日お聞きしたいと思っております。
原油価格が、今まで原油百ドル時代と言われる時代がしばらく続きましたけれども、昨年六月以降でしょうか、急落をいたしまして、この原油百ドル時代を、象徴的に申し上げれば原油五十ドル時代に突入しているのではないか、その可能性があるのではないかというふうに見ております。
しかし、そうはいいながら、日々の価格はいろいろ上下いたしまして、この原油五十ドル時代に、もしその新たな価格体系に移行しているというのであれば、その新たな価格体系の下での金融政策あるいは物価目標というものは、また新たな色彩を持っていかなければかえって日本経済にマイナスになってしまうのではないかというふうに私は問題意識として持っております。
そこで、今日は原油価格の昨今の下落についてどのように見るかということをまずお聞きしたいと思います。もちろん、価格ですから需給がございますが、供給の面から申し上げましても、注目されておりましたアメリカのオイルリグでありますが、昨年九月には千九百三十基ございましたが、二月二十日現在では一千三百十基へ三二%減少しておりますが、コストの高いリグの生産を停止し、低コストのリグについては生産を拡大をしている。つまり、米国は原油を増産をしている、今も続いているということであります。
サウジアラビアのサルマン新国王も従来の路線を踏襲するというふうに伝えられておりまして、一言で申し上げますと、サウジとアメリカは産油量世界一の座をめぐってシェア争いを展開し、ロシアも増産を続けていると。こういう中で、民間の金融機関では原油二十ドル説を唱えるところも出てきていると。一方で、地政学的なリスクがあって反騰するのではないかという見方が様々あるのは事実かと思います。
そこでまず、日銀としての原油の今の下落についてどのように見通されておられるのか、お聞きしたいと思います。

○参考人(雨宮正佳君) お答え申し上げます。
原油価格下落、最近の動向の背景につきましては、需要供給面で様々な要因が今先生御指摘にもございましたとおりありますので、なかなかこれと特定することが難しいわけでございますが、ただ、昨年後半の非常に急激な原油価格の低下ということを考えますと、その間、世界の景気が非常に落ち込んで原油に対する需要が大幅に減退したということはやはり考えにくいということですので、やはりマーケット等でも、今御指摘のありましたようなシェールオイルの問題ですとか、あるいは産油国の生産姿勢といった供給面の影響が大きいという見方が多いように理解してございます。
ただ、先行きでございますが、私ども、原油の予想というのは、今御指摘ありましたとおり、非常に需要供給、多々の要因がございますので難しゅうございます。
私ども、展望レポートで日本経済の物価、経済の見通しを議論します場合には、言わば作業仮説といたしまして、現在の原油市場の先物価格の動向を参考にいたしまして、足下五十五ドルを前提に、先物価格が先行きちょっと上がっている格好になっていますので徐々に上がるということを前提に、そうしたパスを想定して物価・経済見通しを議論してございますけれども、あくまでこれは作業仮説でございまして、政策運営としては、原油価格の変動が世界経済あるいは我が国の経済、物価に与える影響をつぶさに点検しながら適切に対応するということになるかというふうに存じます。

○西田実仁君 過去の経験からいたしますと、原油価格が高騰し、その後急落をするという後には、新しい均衡価格というものを見出すまでにマーケット、二年ぐらい掛けているという傾向があろうかと思うんです。
今回も、そういう意味では、百ドルから五十まで下がって、多少、今の日銀展望レポートでは七十ぐらいに年度後半に向けて上がっていくという想定というふうに記されておりますけれども、実際、もし今の原油価格、足下の原油価格が続いた場合に、消費者物価に対してどのような影響を持つのかということをお聞きしたいと思います。
過去五年間、百ドル前後で推移しておりました原油価格が、昨年六月までの、それまでの一年間の原油価格に比べますと、WTI、ドバイ原油平均のドルベースで約五割、円換算で約四割下落をしているわけであります。仮に現在の原油価格の水準が続き、石炭、原油、天然ガス合計の契約通貨建て燃料輸入価格も原油価格に連動するというふうに想定、仮定をいたしますと、生鮮食品を除く消費者物価に占めるエネルギー比率というのは今八%でございますので、消費者物価は単純に言うと三・二%ぐらい下落するということになるわけでありまして、さらに、国際商品価格も下がっておりますからもっと下がってくるというふうに考えるのが自然体の考え方になってくるのではないかと思いますが、あえて日銀の、この現在の原油価格の水準が続いた場合に消費者物価にどのような影響を与えると見ているのかをお聞きしたいと思います。

○参考人(黒田東彦君) 御指摘のような、現在の価格がそのまま一年あるいは二年続いたらといった場合の物価見通しに対する影響というものは、試算しておりませんので具体的にはお答えできませんけれども、定性的に申し上げますと、原油価格が現在の水準で一定であるということであれば、もとより経済、景気に対しては非常に大きなプラスになりますので、足下で消費者物価上昇率が縮小していくということはあったとしても、長い目で見ますと、経済活動へのプラスの影響から次第に物価押し上げ圧力になっていくだろうと。
それから、これは統計的な話ですけれども、同じ価格で推移すれば、十二か月たてばもう下落というものの影響はなくなるわけですね。
ですから、委員御指摘のような計算はしておりませんが、もちろん緩やかに上がっていくという前提よりも更に物価上昇率が上がっていく、タイミングはずれると思いますけれども、今の水準で固定した場合にずっと物価上昇率が低いままいるということにはならないというふうに思います。

○西田実仁君 これは私が言うまでもありませんが、金融政策も財政も、当然ですけれども、いかにして暮らしを良くしていくのかということに目的があるわけであります。
原油下落というのは、先ほど総裁もおっしゃったように、言ってみれば三十年ぶりの日本経済にとってのボーナスなわけですね。これをいかに経済全体に生かしていくのかということが一番大事なことであろうかというふうに思います。
そのためにどうするかということで、私は、先ほど申し上げましたこの原油下落というのが一時的なものではなくて、新たな価格体系に移行していくという可能性も当然あるわけですから、もしそうであるならば、それをいかにして金融政策にも反映させていくのかということが大事になっていくわけであります。
申し上げたいのは、この物価目標の二%、先ほど来いろいろ議論がございますけれども、物価目標が大事なのではなくて、私たちの暮らしがいかにして良くなるのかということが大事なわけでありますから。私は、いろいろ目標を立てられているかもしれませんが、これは原油が百ドル時代のときに立てた目標でありますから、今はもう価格体系そのものが移行しているというのであればこれは変えないと、変えるのが難しければ弾力化していくという、そういう柔軟な姿勢が必要ではないか。
現に、今日総裁が読み上げましたこの文章も、ただし書の後に、原油価格の動向で二%に達する時期が多少前後する可能性がある点は留意しておくべきだと、まさにこのとおりで、多少というか何というかは別ですけれども。この物価目標二%を、余り機械的にそれを突き詰めていくと、かえって、私自身は、経済に対してゆがみを生じて、一部の人は潤うけれども多くの人が損をするということに、せっかくのこのボーナスが生かされないのではないかというような懸念を持っております。
一昨日、アメリカのFEDのイエレン議長も言われましたけれども、アメリカは大変柔軟に目標についても取り組んでいるという印象をこの発言からも受け止めております。是非、この物価目標の弾力化というか、弾力化という表現が適切でなければ、ここにあるこのただし書のようなところをきちんと実行してもらうことが経済にとってよろしいのではないかと思いますけれども、いかがでしょうか。

○参考人(黒田東彦君) 物価安定目標の二%自体につきましては、御案内のとおり、消費者物価指数が統計の性質上、上方バイアスがあるということと、もう一つは、今名目金利がゼロという下限を踏まえますと、やはり景気が悪化した場合の金融政策の対応力を確保するという、のり代とも俗に言われますけれども、そういう必要があるということもありまして、両々相まって二%というものが、実は海外の主要中央銀行はほとんどこの消費者物価指数で見て二%の上昇というものを目標としているということであろうと思います。そういった意味では、二%という目標は従来どおり維持していくことが適当であるというふうに思っております。
なお、物価目標の達成の時期につきましては、従来から二年程度を念頭に置いてできるだけ早期にということでありまして、もちろん一定の弾力性というかフレキシビリティーはあるわけですけれども、いずれ達成できるということでは、日本の場合は特に、長らくデフレが続いて物価上昇期待がゼロ近傍にアンカーされていた状態を変えていく過程にありますので、そこはやはり一定のスピードというか、できるだけ早期に達成するという必要はあるとは思いますが、委員御指摘の点も十分配慮しながら、適切にこの二%の物価安定目標を達成してまいりたいと思っております。

○西田実仁君 三十年ぶりのボーナスと申し上げましたけれども、一九八四年にOPECのカルテルが崩壊して三十ドルから十五ドルになるという、こういうことというのはしょっちゅうあるわけじゃありません。せっかくこのボーナスが日本経済に今もたらされようとしているわけでありますから、これをいかに享受するようにできるのかというときには、今の物価目標という金融政策と同時に為替の問題も大変重要に当然なってくるわけですね、輸入しているわけですから。為替が過度に行き過ぎた円安になってしまえば、これはせっかくの原油下落というメリットが得られなくなってしまうということでございます。
これは、日本経済にとってはそういうことですけれども、世界経済にとりましても、やはりこの原油下落ということはいろんな意味で、例えば産油国を始めとした新興国に対しても大きな影響があります。為替の引下げ競争というふうなことも、そういう様相を呈してくる懸念も高まっているわけでありまして、私自身は、円が余りにも行き過ぎた評価、過小評価をされて国際不均衡が拡大をするということがないようにするためにも、アメリカ、日本あるいは欧州の日米欧の三極で為替を安定させていくというような、そういう合意づくりも必要ではないかというふうに思いますけれども、総裁はどのようにお考えでしょうか。

○参考人(黒田東彦君) 御案内のとおり、為替政策は財務大臣の所管でありまして、私の立場からコメントすることは差し控えたいと思いますが、金融政策につきましては、各国の中央銀行がそれぞれの経済・物価情勢を踏まえて、物価の安定というマンデートに沿って適切に運営するということが基本的な考え方であり、G20においても従来からこうした方針が確認されておりますので、こういった方針に従って適切に運営してまいりたいというふうに思っております。

○西田実仁君 先ほどもお話がございました家計貯蓄率の話を金融政策の面からお聞きしたいと思います。
日本の家計貯蓄率が二〇一三年度、初めてマイナスに転じたということで、マイナスの三兆七千五百億円と。企業の貯蓄は三十二兆六千億ということで、金融機関は五兆九千億の黒字、政府は三十兆七千億円の赤字ということで、政府の借金が企業によって賄われているという全体の構図になっております。
八六年のあの前川レポートで、日本の貿易黒字を縮小していく、そして貯蓄から消費へということが随分うたわれて、三十年近くたってどうなったかというと、アメリカと日本の貯蓄率がまさに逆転をして、日本はマイナスの一・三%、アメリカはプラスの四・五%という、こういう実態に今なっているわけでございます。
もちろん、このマイナスの家計貯蓄率自体は、マクロ的には法人企業の過剰貯蓄が家計に代わって政府の不足分をカバーしているということだけ見れば、経済運営上問題はないというふうにも言えるかもしれません。また、先ほどの実質マイナス金利という状態であれば、家計からすれば貯蓄を取り崩して消費に回すということが合理的だという面もあるかもしれません。
しかし、ここで私が申し上げたいのは、家計が生活のために貯蓄を切り崩さなければならない、取り崩さなければならないという状態を金融政策をつかさどる日銀としてどのように見るのかという視点が大変私は大事だというふうに思ってございます。この異次元緩和というのは、まさにいろんな成果を大きく上げて、先ほど大塚議員からも評価いただいていたぐらいに大成功だったという面が多々あると思います。
でありますので、これからは、家計貯蓄率を正常化していくためにも金融の出口戦略をなるべく早く公表いただいて、実質プラス金利への道筋を明示して、失われた利子収入、先ほどございました、それを回復させることで国民の皆様方の不満を解消していくと、こういう金融政策も必要ではないかというふうに私は考えておりますが、最後に総裁の御所見をお伺いして、終わりたいと思います。

○参考人(黒田東彦君) 御指摘のとおり、二〇一三年度の家計貯蓄率がマイナスになったわけですが、これは消費税率引上げ前の駆け込み消費による分があると思いますので、恒常的にマイナスになったわけではないと思いますが、いずれにしても、委員御指摘のとおり、家計貯蓄率は趨勢的に低下してきております。これは、ある意味でいいますと、人口の高齢化ということで、個人のライフサイクルを見ますと、若いときに仕事をして貯蓄して、高齢化してリタイアした後に貯蓄を取り崩すということが起こりますので、高齢者の割合が大きくなりますとマクロ的な貯蓄率は低下していくという傾向にあります。
したがいまして、ある意味では、このマクロ的な家計貯蓄率の低下というのは人口の高齢化による趨勢的なものであろうと思いますが、御指摘の点につきましては、やはり家計所得が増加して、それが個人消費の増加につながるということが重要であるというふうに私どもも思っておりまして、そういう意味で、所得から消費へという良循環が続くということがやはり経済にとっても家計にとっても最も好ましいことであろうというふうに思っております。

○西田実仁君 終わります。