193-参-天皇の退位等に関する皇室典範特例法案特別委員会-002号 2017年06月07日

○西田実仁君 公明党の西田実仁でございます。
 私自身、今年の一月から八回にわたりまして行われました全体会議にも臨ませていただきました。各党各会派の意見を取りまとめていただきました衆参の正副議長の皆様、そして各党各会派の皆様、さらには政府関係者や有識者会議の皆様方に心から感謝を申し上げます。
 天皇陛下の退位に関する議論の契機は、言うまでもなく、昨年八月八日の天皇陛下のお言葉にございます。言葉を選ばれながらも大変率直にお気持ちが述べられておられ、私自身何度も読み返し、大変深く感銘を受けました。日本国憲法の第一条には、天皇の地位は主権の存する国民の総意に基づくと、こう書いてございます。天皇陛下は、主権の存する国民にお言葉として問いかけをされました。
 国民の皆様がそれをどう受け止めたのか。全国民の代表から成る衆参の国会において、国民の総意を見付け出すために、今年一月より八回にわたって、十の会派に個別に意見を聴取し、時に全体会議を開催をされました。三月には、衆参の正副議長の下、議論の取りまとめが了承され、政府に立法を要請、国会への提出前にはその骨子案を各党各会派に説明しつつ、再び全体会議に提示をされてから五月十九日に閣議決定をされ、国会に提出をされたわけであります。
 この度の特例法の立法に当たっては、皇室会議の議員であられます衆参の正副議長を中心として、静かな環境の下で進めるために、各党各会派から個別に意見を聴取し、時に全体会議を開催すること八回、立法府におけます議論を取りまとめ、それに基づく政府への立法の要請、そして衆参の国会での審議という議論の進め方そのものが、天皇陛下の退位に関する議論の進め方として将来の重要な先例になるのではないかと思いますけれども、官房長官のお考えをお聞きいたします。

○国務大臣(菅義偉君) 衆参正副議長の議論の取りまとめにおいては、「国権の最高機関たる国会が、特例法の制定を通じて、その都度、諸事情を勘案し、退位の是非に関する国民の受け止め方を踏まえて判断することが可能となり、恣意的な退位や強制的な退位を避けることができることとなる一方、これが先例となって、将来の天皇の退位の際の考慮事情としても機能し得るものと考える。」とされております。
 政府としても、この議論の取りまとめを厳粛に受け止め、その内容を忠実に反映させた法案を立案したものであり、この法案は天皇陛下の退位を実現するものではありますが、この法案の作成に至るプロセスやその中で整理をされた基本的な考え方については将来の先例となり得る、このように考えます。

○西田実仁君 昨年の陛下のお言葉を発せられて以降実施されました主な報道機関による世論調査では、大抵、六割以上の国民の皆様は、退位について、今の天皇陛下だけに認める特例法ではなく、今後の全ての天皇に認める制度改正を望んでおられる姿がございました。しかし、今回の法改正におきましては、皇室典範の特例法という形を取り、今の天皇陛下のみを対象として退位をお認めをするという法案となっております。
 まず、私たちは、この天皇制度の安定的な維持を図るためには、天皇の終身在位制という基本は維持されるべきであるというふうに考えました。
 そもそも、皇位の継承を定める皇室典範では退位の規定を設けてございません。天皇は終身在位とされております。その理由として、第一に退位した天皇と新たな天皇の権威という権威の二分化のおそれ、第二に退位が強制される懸念、そして第三に恣意的な退位の可能性など、天皇の地位の安定に影響を及ぼすおそれを排除するためとされております。
 退位を認めるべきではないという立場からは、公務の負担軽減等を更に進めていけば退位は必要ではないとする意見も一部にございましたが、しかし、公務の縮小はこれまでにも相当なされてきており、これ以上の負担の軽減には限界があるのではないか。また、憲法が定めます臨時代行あるいは摂政という制度は、いずれも国事行為の法的代理でありまして、公的行為ではありません。天皇の行為には、この公的行為のほかに国事行為、そして私的行為がございます。
 公的行為は、被災地の視察や戦没者の慰霊など天皇陛下の意思に基づく行為で、国民とじかに触れ合う活動が多く含まれております。公的行為は、憲法上の明文の根拠はありませんが、その時代の天皇の思いが国民の期待とも相まって形作られておりまして、国民と共にある象徴天皇の重要な行為となってございます。
 公的行為は、天皇の象徴としての地位に基づく行為であって、天皇以外の方が事実上代行しても象徴としての行為とはなりません。したがって、天皇陛下の御負担の軽減には退位はやむを得ないという考えに至ったわけであります。
 天皇制度の安定的な維持を図るためには、あくまでも天皇の終身在位という基本は維持されるべきですけれども、他方で、現代の高齢社会にありまして、日本国憲法における象徴天皇制の下で、さきに述べたような弊害の生じるおそれのない退位については国民合意の上で許容されるものと考えたわけであります。そして、陛下のお言葉を受け、国民の多くは退位はやむを得ないと受け止めておられます。そうしたことから、各会派との議論では、退位を認めるということでまず一致をしたわけであります。
 そこで、退位の検討では、さきの世論調査の結果にもありますように、今上陛下一代限りの退位ではなく、将来の全ての天皇に認める恒久制度とすべしとの意見もございました。しかし、将来にわたる退位の要件を一般的に規定することは極めて困難であります。例えば、天皇の退位の意思を皇位継承の要件とすることは、憲法四条一項に定めます天皇の国政関与の禁止に反する疑いが生じます。
 そこで、政府にお伺いいたしますが、天皇陛下の退位をお認めをするにしても、将来の全ての天皇を対象としなかったのはなぜでしょうか。

○国務大臣(菅義偉君) 将来の全ての天皇を対象とする恒久的な退位制度を創設する場合には、退位の要件を定める必要があります。しかしながら、将来の政治・社会情勢、また国民の意識等は変化し得るものであることを踏まえれば、これらを全て網羅して退位に係る具体的な要件を定めるということは困難であると考えます。
 また、衆参正副議長の議論の取りまとめにおいては、「国権の最高機関たる国会が、特例法の制定を通じて、その都度、諸事情を勘案し、退位の是非に関する国民の受け止め方を踏まえて判断する」とされております。
 政府においては、これらの点を踏まえて、天皇陛下の退位を実現するための特例法案を立案したものであります。

○西田実仁君 一代限りの特例法とすることによりまして、国会において、その時代の国民の意識、社会状況、天皇の年齢や皇位継承者の年齢、皇室の状況などを踏まえ、法律案として慎重に審議することが望ましいというわけであります。
 ただし、特例法とはいえ、重要な先例となりますので、将来のことも視野に入れた法整備をしなければならず、今上陛下の退位を認める事情等を立法事実として法文上に明らかにする必要があると指摘をいたしました。
 すなわち、特例法第一条には、退位に至る事情として、天皇陛下が、八十三歳と御高齢になられ、今後、国事行為のほか、象徴としての公的な御活動を天皇として自ら続けられることが困難となることを深く案じておられること、国民は、この天皇陛下のお気持ちを理解し、これに共感していること、さらに、皇嗣である皇太子殿下は、五十七歳となられ、これまで国事行為の臨時代行等の御公務に長期にわたり精励されておられることの三つを挙げております。
 そこで、政府にお聞きをいたします。
 特例法第一条の退位に至る御事情は、将来、退位が問題になったときの重要な先例になると考えるか、今上天皇の御年齢と今後の活動が困難となることを案じておられること、国民の理解と共感、皇太子殿下の御年齢とこれまでの活動状況は退位を判断する際の要素となり得るのか、また附則では、退位日に当たる法施行日を決める際には首相が皇室会議の意見を聴くように定めております、これも併せて将来の退位において参照される規範となるかどうか、お聞きをいたします。

○国務大臣(菅義偉君) 衆参正副議長の議論の取りまとめにおいては、特例法に、今上天皇の退位に至る事情として、「象徴天皇としての御活動と国民からの敬愛」、「今上天皇・皇太子の現況等」、「退位に関する国民の理解と共感」を盛り込むこととし、「今上天皇の退位の時期の決定手続における皇室会議の関与の在り方については、国会における法案審議等を踏まえ、各政党・各会派間において協議を行い、附帯決議に盛り込むこと等を含めて結論を得るよう努力するもの」とされております。
 また、この議論の取りまとめにおいては、このような法形式を取ることにより、「国権の最高機関たる国会が、特例法の制定を通じて、その都度、諸事情を勘案し、退位の是非に関する国民の受け止め方を踏まえて判断することが可能となり、恣意的な退位や強制的な退位を避けることができることとなる一方、これが先例となって、将来の天皇の退位の際の考慮事情としても機能し得るものと考える。」とされております。
 政府としても、この議論の取りまとめを厳粛に受け止めて、その内容を忠実に反映させた法案を立案したものであります。
 お尋ねの本特例法第一条の趣旨規定や附則第一条二項の皇室会議からの意見聴取の規定も含め、この法案の作成に至るプロセスやその中で整理された基本的な考え方については将来の先例となり得るものと考えます。

○西田実仁君 今回の特例法では、皇室典範の附則に、特例法が皇室典範と一体を成すものであるという規定を盛り込むよう求めております。
 皇室典範という名前の法律に退位を規定しないと憲法違反になるのではないかという意見が一部にございました。しかし、明治憲法下での皇室典範と日本国憲法下での皇室典範は根本的に性格が異なります。明治憲法下での皇室典範は、天皇陛下自らが定めるものであり、議会の関与はございません。これに対しまして日本国憲法下での皇室典範は、国会の議決した皇室典範となっております。国会の議決したというところが最大の違いであります。すなわち、日本国憲法下での皇室典範は一般の法律と同様であり、皇位継承については議会で決めていくと書かれているわけであります。しかし、それでも憲法上の疑義が生じる懸念を排除するため、念のため、附則第三条の規定、すなわち、本特例法と皇室典範は一体のものであるとの規定を設けたわけであります。
 そこで、法制局長官にお聞きいたします。
 天皇の退位を特例法で定めたからといって憲法第二条に違反するとは考えませんが、憲法上の疑義が生じてはいけないので念のため附則第三条の規定を設けたと考えますが、法制局長官のお考えを伺います。

○政府特別補佐人(横畠裕介君) 憲法第二条は、皇位は世襲のものとするほかは、皇位の継承に係る事項については国会の議決した皇室典範、すなわち法律で適切に定めるべきであるということを定めているものと理解しております。
 若干敷衍して申し上げますと、まず、一般に上位の法令において下位の法令の固有の名称を規定することはできないことから、憲法に規定されている皇室典範が特定の法律を指すものではないと考えられます。
 次に、憲法第二条及び第五条において用いられている皇室典範の語は、御指摘もありましたが、戦前の旧皇室典範に由来するものと考えられるところでありますが、従前の皇室典範は、明治憲法の下の国法、国務法とは区別された皇室の家法、宮務法と位置付けられ、議会による規律の及ばない特別の法体系とされていたものであります。
 しかし、現憲法は、このような特別の法体系を廃止し、皇室に関する事項についても憲法の下の法律によって規定すべきものに改めたものでございます。憲法第二条及び第五条は、そのような沿革により、従前の皇室典範において規定されていた皇位の継承及び摂政に関する事項が、国会の議決した皇室典範、すなわち法律で規定すべきものとなったということを明らかにしているものと考えられるところでございます。
 その上で、一般にある法律の特例、特則を別の法律で規定するということは法制上可能であることから、同条に規定する皇室典範には、皇室典範、昭和二十二年法律第三号のみならず、その特例、特則を定める別法もこれに含み得ると考えられるところでございます。
 したがって、法制上、本特例法は現行の皇室典範と一体のもの、一体を成すものとして憲法第二条に言う皇室典範に含まれるものでございます。本特例法附則第三条によって追加される昭和二十二年の皇室典範の附則第四項は、その旨を明記して確認するものであると考えられます。

○西田実仁君 現在、皇族の十八方、うち、今後婚姻による皇族の身分を離れる可能性がある女性皇族は七方、皇族男子は四方でありますが、悠仁親王殿下の世代はお一方のみであります。安定的な皇位の継承をどう確保していくのか、皇族制度をどう維持していくのか、女性宮家の問題も含め、しっかりと議論を進めていく必要があります。
 将来の皇位継承資格者はなるべく早い時期に確定しておくことが望ましいと言われます。なぜかなれば、国民が将来の天皇として幼少時から期待を込めてその御成長を見守ることができるし、また御養育の方針も早い段階で定めることが必要となるからだと思われます。安定的な皇位継承の課題は、先延ばしができない重要な課題であります。
 そこで、政府にお聞きをいたします。
 安定的な皇位継承については、国民の期待、御養育の方針等からも先延ばしができない重要な課題であり、女性宮家の問題も含めてしっかりと議論を進めていくべきと考えます。その際、国民の理解と支持が何よりも必要であると考えますが、議論を進めるに当たっての基本的な視点について現状どのようにお考えでしょうか。

○国務大臣(菅義偉君) 女性皇族の婚姻等による皇族数の減少等に係る問題については、皇族方の御年齢からしても先延ばしすることはできない重要な課題であると考えています。そのための方策についてはいろいろな考え方、意見があり、国民のコンセンサスを得るためには、十分な分析、検討と慎重な手続が必要であると考えます。
 政府としては、衆参正副議長の議論の取りまとめを受けた各政党各会派の協議を踏まえ、国民世論の動向に留意しつつ、適切に検討を進めてまいりたいと思います。

○西田実仁君 終わります。ありがとうございました。